2016.3.20
理由もなく通いたくなるまちがいくつかあります。埼玉の秩父、東京の羽村、武蔵村山などは何だか落ち着くので暇さえあればふらっと訪れたくなる場所。山梨県の塩山・勝沼も、そんなまちの一つに加えたくなる素敵なまちでした。
23区に住んでいた頃は、電車に乗って遠出といえば千葉や栃木、茨城の方がアクセスしやすかったのですが、立川に移り住んでからは、もっぱら山梨・長野の方へ向かうのが楽しくなりつつあります。というのも、中央本線で西に向かう乗客は穏やかな気がするからです。景色も山並みがほとんどで、窓の外を眺めているだけで癒されるからでしょうか?せかせかしていなくて安心します。
立川から塩山・勝沼は1時間30分くらいで到着するので、距離的にもちょうど良い。地方へ向かう電車は乗っているだけで癒されるのです。いつもの場所から少しずつ離れていく感覚が、心地よい。あまりに長いと疲労してしまうけど、山梨に向かうのは長すぎず、短すぎず電車旅を満喫できるところが好き。
休日の早朝、ブロンプトンとともに電車に揺られ、塩山駅に降り立ちます。
塩山駅の北口の目の前にある、このエリアで一番の観光スポット「甘草屋敷」へまずは向かいました。
甘草屋敷は、薬用植物の「甘草(カンゾウ)」を栽培して幕府に納めていたことから、この名前で呼ばれるようになったそう。
訪れた時は丁度ひな祭り前後の季節で、建物内には雛飾りがたくさん。ひな祭りのような伝統的な年中行事は、地域性が色濃く出るのでとても興味深いです。本州の西の端っこ出身者としては、このような豪華絢爛な建物付きの雛飾りは身近ではないため、強く惹かれるものがあります。
ちなみに秋は、大量の柿が干してあるらしい。写真でみるとこれもかなり異様な光景で、ぜひ生で見てみたい。秋も来よう。
甘草屋敷を後にし、ここから一気に南へ。地味にアップダウンはあるものの、ブロ号でも楽に走行できます。そこかしこに果樹園が存在し、のどかな景色が広がります。幾分か時間の流れがゆっくりになったような気さえしてきますね。田舎の人がのんびりしているのはそのためでしょうか。いや、田舎の人って他人事みたいにいっているけど、私も根っからの田舎者。だから気持ちはよくわかります。急ぐ必要性を感じないのです。
そもそも、山梨は実家の雰囲気と似ているのかも。だから好きなのかな。歴史があり、山があり、畑が広がる。そんなところで生まれ育ったため、田舎のにおいを欲しているのかもしれません。
勝沼エリアはぶどうの一大生産地。なにせ駅名が「勝沼ぶどう郷」ですから。全くもってその名に恥じないほどぶどう畑が広がります。
勝沼出身の知人はまさにぶどう農家の生まれ。その知人は「勝沼はフランスみたい」だと言っていました。私はそれに大いに賛成していますが、周りの反応は違うらしい。「フランスとは程遠いでしょ」なんて馬鹿になれることもしばしばあるらしいけど、それは「フランス=パリ」だと思っているからではないでしょうか。フランスは広い。ツールを見ているととことん痛感します。歴史あり、自然あり、山岳あり、オシャレあり。そりゃぁもう、いろんな側面を持っているのです。その一つがワイン。ブルゴーニュ地方なんて一面ぶどう畑で覆われています。ここを切り取れば、「勝沼はフランスみたい」に納得がいくはず。
勝沼は民間で日本初のワイン醸造に力を入れ、日本のワイン産業を確立させた地域。「宮光園」はそのはじまりとされます。宮崎光太郎が明治10年に創業した葡萄酒醸造所と観光葡萄園の総称が「宮光園」です。
1階部分は日本式ですが、2階部分は洋式というおもしろい建物が主屋となっています。中ではまずビデオ鑑賞をし、歴史を学んだ後、建物内を見学。2階は資料館の様になっていて、当時の瓶や看板などが飾られています。
主屋の外には「白蔵」という蔵があり、その名の通り、白ワインを作っていたのだそう。
宮光園の向かいには、「シャトー・メルシャン ワイン資料館」があります。「旧宮崎第二醸造所」を利用して、日本ワインの変遷、シャトー・メルシャンの歴史を紹介しています。
ここまでワインに触れてしまうと、実際にワインが飲みたくなってきます。もちろん自転車のため私は飲めないですが、資料館の前には「ワインギャラリー」というテイスティングや軽食を楽しめる施設もあります。目の前は芝生。奥には山なみ。これこそまさにフランス。飲めないことがここまで悔しいとは、と思えるほど最高の景観が広がっているのです。
ワイナリー巡りが流行るのもわかる気がします。山梨でフランスが感じられるんですから。「あぁ飲みたい」と生唾を飲み込みながら、自転車を留守番させてのリベンジを誓いました。
最後に向かったのは「大善寺」。国道20号線沿いに建つ、奈良時代からの古刹です。
山門は立派な二重門。もうこの時点で期待値がぐいっとあがってきます。
別名で「ぶどう寺」とも呼ばれている大善寺。行基が修行中、夢の中にぶどうを持った薬師如来が現れ、その姿を刻んで安置したのが縁起だそう。
そんなに都合いいこたぁないだろ、と思うけど、日本人は何かしら物語にしたがるのでこれはこれで面白かったり。ところで、この御本尊、今もぶどうを持っているらしい。秘仏のため5年に1度しか御開帳されないですが、写真を見ると通常薬壷を持っている薬師如来の手にはぶどうが置かれています。
ぶどうは法薬として伝わったらしいから、たしかに薬師如来なのでしょう。
本堂は国宝に指定されています。和様式と大仏様式を合わせた折衷様式の代表とされる、美しい建築です。山に抱かれる様がより一層荘厳さを醸し出しています。
高い位置にあるので、甲府盆地もよく見えます。
改めてながめると、本当に穏やかなまちなのだなと感じます。また疲れた頃にふらりと訪れたいな。