愛強し、飛梅伝説 〜谷保天満宮〜

学び, 花ごよみ

今年は寒い日が続き、初春に咲くはずの花の開花が遅れています。とっくに花が落ちてしまっていてもおかしくない蝋梅も未だに見ることができたり、ソメイヨシノよりも一足早く咲く河津桜も例年より遅れて見頃を迎えるようです。梅も例にもれず、遅れていて「梅の名所に行き尽くすぞ!」と意気込んでいた身としては若干の肩透かし感。

それでも、個人宅や散歩道にポツンと植えられた梅たちは徐々に満開になっていて、梅の香りがどこからともなく漂ってきます。

谷保天満宮

南武線の谷保駅から南へ徒歩3分、甲州街道沿いに生い茂る樹々と立派な鳥居が目の前に現れます。


「谷保天満宮」は東日本では最も古い天満宮で、湯島天神、亀戸天神とならび「関東三天神」の一つと称されます。大きな鳥居を一歩くぐると、甲州街道の喧騒から切り離されたかのように凛とした空気が漂います。参道にはニワトリが何食わぬ顔で闊歩していて、いつも逃げないのだろうかとすこしドキドキしながら眺めています。

普通神社といえば、高いところにあるものなので参道は上りなのが一般的。しかし、谷保天満宮は下りの参道です。もともと甲州街道は神社の南側を通っていました。その際は本殿に向かって上っていたようですが、現在の甲州街道が整備されてから、メインの参道が変更され、段丘を下るような参道になってしまったのでしょう。


ケガや病気の箇所をさすると回復するという言い伝えがある天満宮の神使「牛」。多くの参拝客がこの牛をなでなでしている姿が見られますが、なぜ天満宮の神使は牛なのか。それにはいくつか説があるようで、天満宮の祭神菅原道真公の生まれた年が丑年だったからという説や、お亡くなりになった日が丑の日だったからという説などがあります。

飛梅伝説




谷保天満宮の境内には梅林があり、初春のこの季節には観梅を楽しむことができます。そこまで大規模な梅林ではありませんが、白やピンクの梅を見上げながら、ゆったりと散策できるのでお気に入りの梅スポットです。

湯島天神しかり、谷保天満宮しかり、天神社は大抵梅が植えられていて、しばしば名所になっています。


道真公と梅には、なんとも切なくも美しい伝承が残っています。

屋敷内の庭木を日頃から愛でていた道真公。とりわけ「梅」「松」「桜」には一層の愛情を傾けていたそう。しかし、太宰府へと左遷されてしまうことになり、別れを惜しんで梅の木に語りかけるように歌を読みます。

東風ふかば にほひをこせよ 梅の花 あるじなしとて 春なわすれそ
(東風が吹いたら(春が来たら)芳しい花を咲かせておくれ、梅の木よ。大宰府に行ってしまった主人がもう都にはいないからといって、春の到来を忘れてはならないよ)

悲しんだ庭木たちの内、桜は悲しみのあまり枯れてしまい、梅と松は後を追って空を飛んでいきます。しかし松は途中で力尽きてしまい、梅だけが大宰府の地に降り立ったという「飛梅伝説」。

梅の愛、強いですね。

道真公の命日が梅の季節である2月25日というのもなんだかロマンチックな感じがします。梅の花とともに、天へ召されたのかもしれませんね。(まぁ死後、怨霊になってるわけですけど…)

命日の2月25日には、梅花祭という例祭が行われます。古くは「北野菜種御供」ともいい、玄米を蒸したお供え物に梅の花を挿して献じるお祭りです。


大好きな主を追っかけて福岡まで飛んで行く梅。慎ましやかに花を咲かせる割に、情熱的な一面も持っているなんて、なんて素敵なことか。ますます梅が好きになるエピソードです。

谷保天満宮があるためか、国立市の市花は「梅」です。多摩エリアでは「府中郷土の森」の梅まつりの方が大規模なので影に隠れがちですが、自転車ならばハシゴできる距離なので、春のうららかな陽気とともに国立市でも観梅、おすすめです。