野火止用水を辿って、紅葉の平林寺へ

ポタリング, 花ごよみ

「紅葉を観に行けてない。もうすぐ終わっちゃうなぁ」。会社の同僚がポツリと残念そうにこぼしていました。「まだまだ間に合いますよ!」なんて、鼻息荒く、あそこはどうですか?ここなんかもまだ見頃前ですよ、と得意気に紅葉スポットを提案。しかし、よくよく思い返してみると、私自身が「紅葉を観に行く」ということを目的に出かけてはいないのではないかと思い至ったのです。いつもの自転車ライドの流れで紅葉を観ていたので、紅葉を満喫したような気になっていたけれど、目的は別の場所。

あんなにも自慢げに紅葉スポットを提案した自分が恥ずかしくなりました。これはいかん、と晩秋のよく晴れた土曜日、「紅葉ライド」へ出かけたのでした。

目的地に設定したのは、埼玉県新座市の「平林寺」。紅葉がきれいで有名なお寺です。「平林寺」へは何度か行ったことがあります。ただ入ったことはありません。参拝料がかかるため、なんとなーく今まで入っていなかったんですね。あとは早朝すぎて、開門していなかったりとタイミングが合わなかったのです。


西側からは新小金井街道が走りやすくて、お気に入りなのですが、今回は「野火止用水」を辿って平林寺まで行ってみることに。

玉川上水駅の東側から分水される「野火止用水」は、東久留米や清瀬などを北東に進み、埼玉県に入ってからは新座を経て最終的に志木の新河岸川に合流します。平林寺境内の西側を沿うように流れているので、用水を辿ってればいつかはたどり着きます。地図を見なくてもいいのでとても楽です。

ほとんどが舗装路ですが、未舗装の区間も。迂回することも可能ですが、未舗装路をどうどうと走れるのはランドナーの強み。パンクなんて怖くない!

野火止用水は、玉川上水からの分水路としては一番古い用水です。今でもきれいな水が流れていて、暗渠になったり開渠になったりしながら、水の流れを間近に感じられます。

松平家墓所。でっかい五輪塔がいっぱいあって面白い風景。五輪塔は見た目がずんぐりとしていてかわいいので好き。

平林寺は、川越藩主松平信綱の菩提寺で、境内には松平家の墓所もあります。そして、この松平信綱は、野火止用水を開削した人物。当初、岩槻にあった平林寺ですが、信綱の息子輝綱が父の遺志をついで、現在の地に移築しました。野火止用水と平林寺は深い関係があるのですね。

紅葉見頃の平林寺散策

用水を辿って、平林寺に到着。
わりと開門すぐの時間帯に着いたのですが、思っていたより人が多い。


総門をくぐって正面に楼門があり、その周りが赤く色づいていて絵になるので、撮影するために人がたくさ留まっているのでしょう。ちなみに、境内配置は総門から本堂までが一直線に並んでいるので、禅宗伽藍です。


境内の敷地はかなり広く、総面積は13万坪あります。ほとんどが雑木林ですが、かつての武蔵野の雑木林の面影を残す貴重な文化財として、国指定の天然記念物に指定されました。雑木林の天然記念物は、日本で唯一だそうです。


境内にある「野火止塚」。
このあたりは元々平らな土地だったそうですが、そこに「野火」を監視するための小山を築いたものがたくさんあったらしいです。「野火を止める」で野火止。地名の由来でもあるそうです。



人工的に創り出した色よりも鮮やかで独特な色味の「紅色」が広がり、ずっと上を見上げて歩いてしまいます。1年間の殆どの期間を緑色に覆われたこの空間も、この時期の数週間だけ真っ赤に染まります。この瞬間的な季節の移ろいを愛でる日本人の感覚、良いですよね。日本人で良かったと思う瞬間です。

そもそも「紅葉を観に行けていない」と焦ったり、残念がったり。「まだ間に合いますよ!」と、後押ししたり。そんな感覚が当たり前になっていることが、とても貴重で、大切にすべきことですね。日本人の繊細な美的センスを大切に、四季を感じる毎日を送りたいです。